メガネっ娘はメガネが本体

小谷ちあきと加藤里保菜が好きです

「より付加価値の高い職種への配置転換」という名のリストラ

最近、自治体がRPAを導入したことによりルーティン業務の8〜9割が削減できたといったニュースをよく目にするようになった。 去年一昨年は大企業が躍起になってRPAによって「何万時間分の業務削減」「何千人分の業務削減」といったプレスリリースを出していたが、おおかたコンサルやSIerが狩り尽くしてしまったのか最近はあまり目にすることがなくなった。

RPAによる業務削減といったニュースで必ず言及されるのが「余剰人員はより付加価値の高い職種へ配置転換させる」といったフレーズである。これは映画版『名探偵コナン』で主人公のコナンが「ラーーーーン!!」と叫ぶのと同レベルでおきまりである。私もアサインされたRPAのプロジェクトで何度もこの「余剰人員は〜する」というフレーズをパワポに打ち込んだ記憶がある。
このフレーズを目にするたびに「付加価値の高い仕事とは一体なんだろう?」という疑問が胸をよぎる。

ニュースを読む限りだと以下のような職種が付加価値の高い仕事の代表例として書かれている。

  • 提案型営業
  • 事業企画部門
  • 業務企画部門
  • システム企画部門
    etc...

付加価値の高い職種は色々あるが、これらについて共通しているのは「答えの無い問いに対して頭を使って解決策を考え実行する」ということである。
提案型営業であれば、自社サービス・製品を用いて顧客の利益になることを考え、提案・実行する。業務企画部門であれば部署をまたいでヒアリングをし、最適な業務プロセスを考案し、反対する人たちをなんとかして説得しながら実現させる。
旅に例えると、自分で目的地を設定し、最適なルートと乗り物を選び、途中で起きる問題などもなんとか乗り越えながら目的地へ到着する。
こうした曖昧な状況に対して仮説を持って進んでいくことこそが仕事の醍醐味でもあるし、難しさでもある。
 

逆にRPAで削減されている仕事を考えてみよう。 削減される業務は部署ではなく仕事内容で考えた方がわかりやすい。 挙げればキリが無いのでここではイメージのつきやすい業務を挙げておく。

  • ルールが決まっている事務作業
  • 紙からPC上へのデータ移行
  • 定期的な情報の取得、まとめ作業
  • メール・通話を介した受注・発注作業

こうした業務の大きな特徴は、明確な答えがあり、プロセスも全て決まっているこどである。あえてオブラートに包まず言うと思考を全く必要としない作業である。銀行では総合職として入社し、このような業務を行なっている人は何かやらかして左遷された人が多い。

余談だが、プレスリリースなので「付加価値の高い職種への転換」という言葉を使うと、RPAによって削減される仕事をしていた人たちは「付加価値がない仕事をしていた」と会社が世間に対して公言するようなものなので、その人たちのプライドやモチベーションを大きく削ぐんじゃないかと心配している。

 
さて、このような業務を行なっていた人たちを先ほど挙げた高付加価値の職種に転換するにあたり、以下の2つの問題がある。

  1. 付加価値を出せない。
    人間の慣れというのは恐ろしいもので、全く頭を使わないオペレーショナルな業務を続けていると、次第に頭を使うことに抵抗感が生まれ、数年経つ頃にはもはや自分の頭で考えられない指示待ち人間になってしまう。私はこのような人を銀行でもコンサルでも数多く見てきた。
    こうした人たちがいきなり営業部門や企画部門に異動し、「自分で考えろ」と言われても、そもそも何をどうやって考えればいいのか分からず、バリューを出すことができないだろう。ずっと社内で事務作業をしていた人がいきなりクライアント先に行って商談をするのがかなり厳しいことは想像に難くない。 また、未経験職種への異動では仕事を教わる相手が自分よりも年下になる可能性があり、30後半の社員にとってはプライドが邪魔をして業務に集中できないこともあるだろう。

  2. ポストに空きが無い
    RPAで代替されるような労働集約型の仕事とは異なり、高付加価値の仕事は知識集約型なので、単純に人を増やしたからといって利益が伸びるわけではない。そもそも営業部門も企画部門も現在の人員である程度の顧客や業務をカバーできていたわけだし、いきなり配置転換で異動してきた社員に回すような仕事は少ないだろう。
    また、銀行をはじめとする大企業の多くは売上が伸びないからRPAを用いたコスト削減を行なっているわけで、わざわざ削減した人員をバリューの出しにくい営業部門に送るのは結局コスト削減になっていないのではないかと思う。

 
 
上記のような問題があることから、RPAによって浮いた人員を別の部署に送るのはあまり得策ではないだろう。
では彼らはどうなるのか?
自主退職である。

キャッチアップ力が比較的高い若い社員ならともかく、ある程度の年齢で慣れない業務をするのは体力的・精神的に辛い。ある程度耐えられなくなったところで退職金割増の早期退職を公募すれば、多くの社員が流れていくだろう。 実際、某メガバンクの役員も「制度的にリストラはできないから、慣れない職種へ異動させることによって退職を促す」と裏で言っていたらしい。

 

本当に何があるか分からない世の中なので、これから先どんな人材が必要となるのかを常々考えながら仕事をしたいものだ。