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印鑑撤廃について元銀行員が思うこと

ここ最近、電子政府法案に対する印鑑業界の提案が話題になっている。色々と支離滅裂な主張があるが、まとめると「法的手続きに印鑑が不要になってしまうと印鑑業界が縮小して困る」ということだった。これに関しては「頑張れ」としか言いようがないのだが、彼らは本当に印鑑が社会を良くしていると思っているのだろうか。
少なくとも私が勤めていた銀行では手続きに印鑑があることによってよかったと思うことは一つもなく、むしろ多くの問題が発生していた。 そんな印鑑によって起きた冗談っぽい話を紹介していきたい。

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①口座開設の際に最後の捺印を間違えて全て書き直し

基本的に銀行窓口で口座開設をするときは申込書に手書きで名前や住所、職業等の個人情報を記入する必要があり、これには10分ほどかかる。その後銀行員によるクレジット機能付きキャッシュカードの営業等もあり、申込書が全て埋まるまでに窓口についてから20分ほど経過している。
そして埋まった申込書に待ち受ける最後の関門がある。それこそが捺印である。普段の生活でシャチハタ印はともかく、朱肉を使って印鑑を捺す機会がある人は少ない。そのため、お客さんはこの捺印をする際に印鑑がずれてしまったり、朱肉の量によって印影が薄かったり滲んだりしてしまうことがある。
そうなった場合は悲劇である。目の前の銀行員が申し訳なさそうな顔をしながら新しい申込書を出してくる。なんと印鑑を押し間違えただけで、これまで20分近くかかって記入した申込書を全て書き直さなければならないのだ。
申込書の捺印欄は大きいので、正直空いているスペースに捺し直せばいいと思うし、客にも同じことを何度も言われた。しかし、なんでか分からないが一度捺し間違えてしまうとその捺印欄は使えなくなるらしい。(銀行では厚切りジェイソンのようにWHYと声をあげるのはタブーになっているので理由を聞いてはいけない)

②法人顧客が違う印鑑を押してしまい再度もらいに行く

ドラマ「半沢直樹」でも描かれているように、法人営業はお客さんのもとを訪れて融資契約書などの書類に印鑑をもらってくる必要がある。この際に顧客が複数の印鑑を持っていることを知らないと悲劇が起こる。
私はある飲食店の経営者からネット決済関連サービスの申込を受けるために、契約書に捺印をもらって自分の営業店に帰ってきた。そして事務職の方に社内手続きをお願いしたが、数分後に事務職の方から手続きできないとの報告を受けた。捺されてある印鑑が登録印と違っていたらしい。私は再度顧客のもとを訪れて別の印鑑を捺してもらい、再度手続きをしようと試みたが、また印鑑が違っているという理由で突き返された。最終的に私は登録されている印鑑のコピーをとって顧客が持っている全ての印鑑を出してもらい、その場で確認して捺印してもらいなんとかことなきを得た。一日が捺印で終わってしまい、顧客にも迷惑をかけた。

③正しい印鑑を持っていなくても、その場で印鑑変更できる

私が銀行で働いていて一番疑問を持ったのが、登録してある印鑑とは別の印鑑を持って来店しても、本人確認書類があれば窓口で印鑑を変更して手続きができるという点だ。例えば高額のお金を下ろすために来店したが印鑑が間違っている場合、保険証を見せればその時に持ってきた印鑑に変更でき、お金をおろせてしまえるのである。顔写真がない保険証で変更できてしまう印鑑など、本人確認の効果があるのだろうか。(犯罪の危険性も大きい) いい加減印鑑に本人の承認機能があるなどと考えるのはやめるべきではないだろうか。

④(番外編)外国人のサインを再度もらい直す

印鑑をやめてサインにすれば問題が解決すると思ったら大間違いだ。日本で口座を持っている外国人は印鑑の代わりにサインで銀行口座の作成や各種手続きを行うことができる。しかし、私が対応した外国人客は昔口座を作った際に書いたサインと現在のサインが微妙に違っていたため、その場でサインを再登録することになった。ちなみにサインを変更する場合は申込書を改めて全て記入しなけらばならないため、①で書いたように20分以上かかる。数年前と全く同じサインを記入できる人などそういないだろうから、結局印鑑からサインになったとしても銀行内のルールが本当の意味で変わらない限りは利便性が大きく変わることはないと思う。

⑤(番外編)90歳のおばあちゃんに全て手書きで書かせる

銀行では申込書は基本的に全て申込者本人が記入しなければならない。以前90歳の施設暮らしのおばあちゃんが施設入居費用を下ろすために来店した。しかし、登録印を持っていなかったために、再度印鑑登録を行う必要があった。私は代理記入をしてもいいのではないかと上司に言ったが承認されず、仕方なく車椅子で握力もほとんどないおばあちゃんに1時間近くかけて名前や住所を記入してもらい、新しい印鑑を登録した。

 
印鑑にまつわるエピソードはまだたくさんあるが、書いていく中で前職の嫌な記憶がどんどん溢れてきて気持ち悪くなってきたのでここら辺でやめようと思う。
印鑑を無くすことで手続きがシンプルになるのは間違い無いと思うが、印鑑は結局プロセスの一部分でしか無いため、いくらITを導入して一部分を改良したとしても、本当にユーザーの利益になるのかを真剣に考えてプロセスを一から見直さなければ結局うまくいかないのでは無いかと思う。